その日は、ドイツに行く前に友人にもらった優しい色のマフラーを巻いていた。外出用にしているお気に入りだ。
翌日、お世話になった方を訪問するために、念には念を入れて簡易テストを受けるべく街に出かけた。わたしは少しよそ行きの、仕事に行く時よりもきっとお洒落な、でもたぶん普通の格好をしていた。
「そのマフラー、素敵ね」と、検査してくれたお姉さんが割と初めの方に、たぶん開口一番に褒めてくれた。それだけですっかり嬉しくなってしまって、パワーをもらったわたしは、その足でカメラのライカショップを目指した。
ドアを開けるにも勇気がいる、いかにも高級な雰囲気。普段のわたしなら、興味があっても通り過ぎる。緊張したけど、素敵なマフラー巻いてるし、今日は大丈夫だ、と足を踏み入れた。
店員さんは、最初の挨拶以外、まず買わないだろうと思って放っておいてくれた。でもやっぱり雰囲気に押されて、カメラに触れるのも質問するのも気が引けて、店内の写真展だけ見て足早に店を出た。
店を転々と巡りながら、どうしてお姉さんは褒めてくれたんだろう。入り口にチップ入れがあったことを思い出して、とても失礼だけど、そのため?と、考えていた。
ところが、しばらく経ってから、たぶん違う。真相はもちろんわからないけど素直に受け取ろう、と思った。
先日、毎月一回、職場の衛生検査に来るおっちゃんのメガネが、彼に似合ってとても素敵だったのだ。今まで、何回と顔を合わせていたのに。全く気づかなかった。
それを、素直に伝えればよかったと思った。次、彼に会った時伝えたい。
接客Howtoに、相手の持ち物を褒める!ってよくあるけど、それは本当に、いいなと思った時に伝えればいいのだと思う。
それだけの話。